「最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか」を読んでみた

どうも~コタローです

今回の記事では「最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか」を自分なりにまとめていきたいと思います.著者の河本薫さんは 初代データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれており,この本の出版時には大阪ガスの情報通信部ビジネスアナリシスセンター長を務めています.

この本にはタイトルにもある通り”データ分析”組織について著者の経験や企業内データサイエンティストとしての哲学も書いてありますが,”データ分析”にとどまらず,設立当時は会社では相手にされなかった小さなチームを18年かけて会社の中でも重要な組織へ育て挙げた著者なりの組織論やリーダー論もかかれています.

この本は読む人によって,データ分析者の心得本,ある人にとっては社内で新たな組織を立ち上げるときの参考書,またはリーダーとしてどう振舞うか考えさせてくれるような本などへと,いろいろ化けるのではないかと思います.

この本にはデータ分析の手法などは一切書かれていないので,データ分析手法を勉強したいといった目的には全くもって向いていませんのでご注意を.

この記事では,この本の中でも組織論やリーダー論ではなく企業内での”データ分析職”に焦点を当ててまとめていきたいと思います.

企業のデータ分析職で大切なこと

データ分析は手段にしか過ぎない

この本で著者が何度も繰り返し強調していることは,企業に勤務するデータ分析者として一番大切なことは会社への貢献をすることです.

ここで言う,会社への貢献とは,会社に価値を提供すること.会社に価値を提供するには,データを分析するだけでは当然足りません.

データ分析はあくまで手段にすぎず,データを分析して現場で役に立つ知見を得て,さらに現場の責任者が納得したうえで実際に現場で使われ役に立ち,始めてそのデータ分析は会社に価値を提供することができます.

企業に勤めている人間として会社に価値を提供することが目的であることは,データ分析者に限らず共通していて,当たり前のことを言っているようですが,データ分析者にとって意外とこの部分は盲点なのではないでしょうか.

特に,大学や大学院で理系の学問を学び,バリバリとデータ分析をしたいと思っている人にとっては,難しいモデルや最新の技術を使って分析の精度を上げることこそが会社への貢献であると思ってしまう人は少なくないと思います.最近であればディープラーニングを使ったデータ分析など魅力的に感じる方が多いのではないでしょうか.

私自身,現在博士課程で機械学習を専攻していますが,最新のモデルを使ったり,様々な工夫をして少しでも精度を上げることに集中したくなる気持ちは非常にわかります.

しかしこの本ではバッサリと「分析精度の向上≠会社へ貢献」と言い切っています.

ミッションはデータ分析で得た知見による業務改革

著者は本の中で, 「業務改革」と「業務改善」を別のものとして区別しており, チームのミッションは「業務改革」であると強調しています.違いとしては「業務改善」は既存の意思決定プロセスの中で工夫を積み重ねて業務の改善を行うこと,「業務改革」とは既存の意思決定プロセスの一部を根本から見直し変えることで,業務を改革することであるとしています.

例として, 緊急車両の配置問題を考えてみましょう.緊急車両を運用する組織にとって、その配置場所を最適にすることは現地到着までの時間を減らしたり,必要車両数を減らしたりするために重要な問題です。 この意思決定において,従来は担当者の勘と経験に頼っていたものを,過去の緊急車両の出動事例や交通渋滞データなどを組み合わせた最適化手法を用いて現場への到着時間を短くしたのであれば,それは意思決定プロセスを変革しているので「業務改革」となります.一方で,今までは道路地図を使っていたが,これからは地図アプリを使って緊急車両の配置を行った場合は「業務改善」の範疇に入ります.既存の意思決定プロセスの中でプロセスを変えずに改良を加えただけだからです.

なぜデータ分析専門組織が「業務改善」ではなく「業務改革」に取り組むかというと,「業務改善」は従来の意思決定の中での改善であるため,現場内で発想,実現ができます.一方で,「業務改革」は既存の意思決定の一部を根底から変えるためのそのプロセスの中にいる担当者よりも,間接部門のデータ分析組織の出番となるわけです.

データ分析職にとって必要な能力は

上でも述べた通り,データ分析組織の一番の目的は単にデータを分析し,分析精度を上げることではなく,データ分析をし,その知見が現場で使われ会社に価値を生み出すことです.そのうえで「業務改革」を実行するために,著者が本の中で繰り返しデータ分析者にとって不可欠であると主張している3つの力があります.

その3つとは「見つける」,「解く力」,「使わせる力」です.

見つける力

「見つける力」は,どんなデータを分析すれば業務改革をできるかのか見つける力のことです.

まず一番初めには,山ほどある業務課題の中からデータ分析によって業務を改革できそうな課題を見つけなくてはなりません.それを見極めるにはデータ分析者だけでも,事業部の担当者だけでも困難です.

データ分析者はデータ分析から何を得られるかがわかる能力はありますが,事業担当者と違って業務の細部や課題に詳しいわけではありません.

「見つける力」とは,事業担当者と密なコミュニケーションを取りながら業務上の課題の中でデータ分析を使うことによって改革できそうなケースを見つける力です.

決して,事業部門がお題を与えてくれるだろうという受け身の姿勢では成果を出すことはできません.

解く力

「解く力」と聞くと,いよいよデータ分析者の数理的センスでデータを分析する力のことであると考える人が多いのではないかと思います.

しかし,著者は,数学的なセンスはもちろん大事であるとしながらも,「解く」というフェーズでも事業部との連携は必須であると考えています.

はじめから何度も強調されているように,企業でデータ分析を行う目的は,現場に価値を提供するようなデータ分析の知見を得ることです.

データを「解く」という段階においても現場を知っている事業部と連携し,問題設定やデータの定義を見誤ることを避け,データの分析結果と現場担当者が持っている仮設を照らし合わせつつ,分析を進めなければいけません.

独りよがりなデータ分析をして現場の意思決定に役に立たない知見を得ても仕方がありません.

例えばデータから統計的な相関関係(比例や反比例)を得ることはできますが,因果関係(原因と結果の関係)を得ることはできません.現場の担当者が因果関係について仮説を持っているならば,その仮説を用いる方が効果的です.

こういった現場とのコミュニケーションも含めた総合的なデータ分析能力,「解く力」がデータ分析者には不可欠であると著者は書いています.

使わせる力

せっかく課題を発見し,データを分析して有用な知見を得ても,現場がその結果を使うことを拒否すればその一連の作業は全く無駄になってしまいます.

「使わせる力」とはデータを分析し知見を得た後に,しっかりと現場を動かし結果を利用して業務を改革させる力です.

データを分析して,良い結果を得て事業部門から誉められたとしてもすぐに現場に結果が導入されるわけではありません.まずは現場で試行的に導入され,場合によっては追加でのデータ分析をしたりしながらPDCAを回していき,正式に導入が決まります.

導入される際には,全員が結果を使いこなせるように,例えばタブレットで分析結果を閲覧できるようにするなどして,ツールに落とし込む必要があったりもします.

「使わせる力」は文字通り,課題を「見つけ」データを用いて課題を「解いた」あと,最後まで現場と連携を取り,現場にその知見を使わせる能力のことです.

さて,「見つける力」,「解く力」,「使わせる力」についてみてきましたが,そのどれをとっても現場の事業部門と密に連携を取ることが非常に大切であることがわかると思います.

次では,この本では,データ分析組織が,どう他の部門と関わっていくべきか書かれているかを説明します.

データ分析組織の社内外交

事業部門との連携は必須

ここでも繰り返し述べていますが,データ分析組織,またはその一員として事業部門との密な連携は,課題を発見するところから,業務改革を実施するところまですべてのフェーズにおいて重要になってきます.

全方位外交

事業部門との連携は必須と書きましたが,著者はどこか一つの事業部と連携すればよいのではなく,全事業部門と積極的にかかわり,ソリューションを提供できるようにするべきであると言っており,その方針を全方位外交と呼んでいます.全方位外交の利益は3つ述べられいます.

1つ目は「全社的に活動しているという社内認知を得ること」.当然,これが得られれば会社内や役員からの評価も上がるわけです.

2つ目は「分析組織のリスクヘッジになること」.特定の事業部門だけと連携していると,その事業部門の環境が変化したり,最悪の場合撤退なんてことになると,データ分析組織の意義がなくなってしまいます.

3つ目は「仕事のマンネリを防げること」としています.メンバーのモチベーションを保つためには,多様なデータや課題に取り組むことが大切です.

また,全方位外交をし,会社の多くの事業を俯瞰で見ることによって,データ分析によって貢献度が大きくなる分野がわかります.これまでデータ分析を活用されてこなかった業務「未改革のエリア」や,大規模な業務「大金が動くエリア」はデータ分析によってお金になるポテンシャルが高いことがわかります.すなわち,データ分析組織が会社に貢献しやすい分野であるということです.

さらに,全方位外交をしていると組織横断的な業務改革にも貢献できることがあったり,似た業務があった場合はデータ分析を横展開することによって効率的に業務改革を行うことができることもあります.

このような地道な全部門間との関係の構築が,データ分析組織が会社にとって重要な組織になるうえで大切であるようです.

まとめ

著者が繰り返し,この本で述べていたことは

  • データ分析は手段に過ぎないこと
  • データ分析者には,データ分析のための数理的センスだけでなく 「見つける力」,「解く力」,「使わせる力」 のすべてが必須であること
  • 事業部門との連携は必須であること

でした.

データ分析職は,部屋にこもってPCの前でデータを分析していればよいだけではなく,ビジネスパーソンとして,会社に貢献しなければならないのですね.

いかがでしたでしょうか.この本の中でデータ分析職について書かれていることを自分なりにざっくりとまとめてみました.

この本の中には,上で書かれたこととともに著者が実際に経験した事例なども豊富に説明されています.

また,本の特に後半では,組織を率いるリーダーとしての考え方や人材育成論,組織論なども書かれているので,興味のある方は手に取って読んでみてください.